ポリティカル・コレクトネスという言葉を耳にしたことはありますか?
日本では「ポリコレ」と略されたりもするようですが、これは英語の “political correctness(略してPC)” のことです。
“political correctness” については後ほど紹介しますが、これによって英語表現が少しづつ変化してきています。
今回のコラムでは「ポリティカル・コレクトネスとは何か?」という議論はさておき、定義を英英辞書から引用しながら、実際にその影響を受けた英単語や英語表現の例を紹介したいと思います。
“political correctness” の定義
「ポリティカル・コレクトネス」って初めて聞くと、何のことだかさっぱり分かりませんよね。
政治的な正しさ?みたいな、意味不明な訳になってしまいます。
そこで、英英辞書で “political correctness” を引いてみました。すると、こんなことが書いてあります。
(sometimes disapproving) the principle of avoiding language and behaviour that may offend particular groups of people
オックスフォード英英辞典
大まかに言ってしまうと、特定の人々の感情を害するような偏見や差別的な言葉・振る舞いを避ける、という考えですね。
さらに、ちょっと長いですが、こんなふうに続きます。
This may be against people men or women, against older people, or against people with a particular skin colour, racial background or physical disability.
性別、年齢、肌の色、人種(民族)、身体の障がいなどに対するものが含まれるようです。
そこで次は、具体的にどんな言葉が避けられて、逆にどんな言葉が使われるようになったのかを見ていきたいと思います。
性別にまつわる表現の例【職業】
日本でも職業を表す名称に性別を感じさせるものが少なくなったと思いませんか?例えば、
- 保母・保父 → 保育士
- 看護婦・看護士 → 看護師
- スチュワーデス・スチュワード →客室乗務員、フライトアテンダント、キャビンアテンダント
- 産婆・助産婦 → 助産師
などがあるかと思います。それと同じように、英語にも性別を感じさせる職業名というものがあって、それらが他の言葉に置き換えられてきています。
- fireman → firefighter
- policeman/policewoman → police officer
- businessman/businesswoman → business person
- salesman/saleswoman → salesperson
- spokesman/spokeswoman → spokesperson
- chairman/chairwoman → chairperson
“-man” や “-woman” という表現はナシにして、性別を感じさせない “-person”、”-officer” などに置き換えられていますね。
また、以下の表現はまだ耳にすることもあるものの、避けられることもあります。
- waiter/waitress → server, wait staff, waiting staff
- actress → actor
- hostess → host
これらの単語を使う場合でも、敢えて「男性の〜、女性の〜」と表現する必要がある場合には、
- 男性の看護師:a male nurse
- 女性の警察官:a female police officer
のように言うことがあります。
ちなみに、ニュージーランドのカフェではこんなところにも性別を排除した表記がありました↓
クリスマスの定番、人の形をしたクッキー「ジンジャーブレッドマン(Gingerbread Man/Men)」です。このカフェでは、
- Ginger Bread Person
という名前で売られていました(正しくは “gingerbread” はワンワードです。笑)
性別にまつわる表現【Ms】
男性には “Mr.” という敬称(タイトル:Title)を付けたり、未婚女性には “Miss”、既婚女性には “Mrs.” を付ける、と覚えていませんか?
でも今では、女性を婚姻状況で “Miss” と “Mrs.” に分けるのをなくして、”Ms.” が使われることが多いです(発音は /məz//mɪz/)。
これはオックスフォード英英辞典によると、ポリティカル・コレクトネスが叫ばれるようになる前から使われていたようで、すでにわりと長く使われている表現のようです。
ただ、”Miss” や “Mrs.” が全く使われないかというと、そんなこともありません。婚姻状況が分からない時や区別したくない(する必要のない)場合を除いて使われているのを見かけます。
ちなみに、”Mr.” や “Mrs.“、”Ms.” のピリオド(.)はイギリス英語では使わないので、ニュージーランドでもピリオド無しの “Mr”、”Mrs”、”Ms” を目にします。
■学校の先生は “Mr/Mrs/Miss” などの敬称をつけて呼ぶことが多いです↓
■子どもに対して使う敬称は、こちらのコラムをご覧ください↓
身体や民族にまつわる表現
その他、メディア・報道などでよく使われているものがこちらです。
- deaf → hearing impaired
- blind → visually impaired
- old people → senior citizens
- Black → African American
- Indian → Native Americans,(カナダでは)First Nations
「耳が聞こえない」や「目が見えない」は “〜 impaired” と表現されることが多いです。
“impaired” とは、”damaged, less strong, or not as good as before” という意味です(LONGMAN現代英英辞典より引用)。
肌の色や民族にまつわる表現は色々と議論があるようで、これが絶対に正しいとは言い切れません。言葉も常に進化しているんですね。
さらに、ポリティカル・コレクトネスに則って言い換えると、こんなものもあるとオックスフォード英英辞典にはあります。
- disabled → physically challenged
- poor → economically exploited
- short → vertically challenged
- fat → differently sized
実際にどこまで言い換えが必要かの線引きは難しいですが、ニュース記事や報道などでは特に配慮されているように感じます。
“Merry Christmas” もダメ?
以前にコラムで紹介したことがありますが、クリスマスの挨拶である “Merry Christmas!” も “Happy Holidays!” に変わってきていたりします。
クリスマス時期の街の飾り付けやクリスマスカードでは “Happy Holidays!” がよく使われているものの、私は “Merry Christmas!” と声をかけられることもいまだに多いです。ただ、アメリカや他の国ではまた違うと思うので、国や地域差、または個人差もありますね。
もともと「ポリティカル・コレクトネス」は、私たちが普段使う言葉が考え方に影響を与えるという考えから来ていて、人々の心や社会のシステムから偏見をなくすためというのが基本的な考え方です。
表現が変わることで印象が変わることもあると思うので、言葉の影響って大きいですよね。
ただ、私個人としては、あまりにも行き過ぎてガチガチで窮屈な社会にはならないでほしいなと思ったりもします。
ちょっと注意したい英語にまつわるコラム
■”Oh my God” はとてもよく耳にするフレーズですが、使う際にはただネイティブの真似をするのではなく、知っておいた方がいい事があるんです↓
■「クリスマス」を “Xmas” ではなく “Christmas” ときちんと書くのもポリティカル・コレクトネス?
他にも、ちょっと知っておきたい【注意が必要な表現】はこちらでも紹介しているので、ぜひ合わせてご覧ください!